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いざスタート

 コンペのスタートは大勢の集うコンペほど華やかなものである。 一昔前は、最もお偉い方が打つスモークボールで開会されたものである。 はやる気持ちを抑えた面々の陽気な会話、善意や悪意の入り交じったヤジが飛び交う。 一方内心では、これから迎えるティーショットがうまく行くかどうかの不安が徐々に高まってくる。 コンペの始まりは何度経験しても緊張するものである。

 私も、大勢の観客を前にして、見事なショットを打って皆の喝采を浴びたことが何度かあるが、逆に大変惨めな思い出もある。 忘れもしない柳井カントリークラブアウトの1番。 最初のパーティーでのティーショットが見事なチョロ、ボールはティーグランドのすぐ下のラフに飛び込んだ。 大勢の見つめる中、第2打OB。 打ち直しがすぐ目の前の右急斜面ラフへ。 そこからOB。  皆の喜びのヤジが、同情のヤジに代わる。 後は良く覚えていないが、あがってみたら、13打。 その日の不成績はともかく、皆の前で演じた醜態は今でも忘れられない。

 大きなトーナメントの初日、プロでも足がふるえるほど緊張すると言う。 ましてやサラリーマンゴルファー。 練習を十分したらしたで、しなかったらしなかったで、いずれにしても不安を抱えてのショットである。 だから、ティーグランドに立ったときどの位冷静でいられるかが勝負である。 冷静さを失うと、ボールが見えなくなる。 めくらになったわけではないからボールは見えるのだが、ボールから目が離れる。 目が離れると言うことは、そもそもスイングが崩れていると言うことである。 押し出し、引っかけ、ダフリ、トップ何でも起こる。 これは人のティーショットを見ていれば良く分かる。 特に後の方の組でスタートするときは、人のショットをよく観察することである。 落ち着いている人のショットはまあまあのところへ飛ぶ。 打ち急いでショットした人のボールはさまざまな方向へ飛び、トラブルとなる。

 スタートホールのティーグランドに立って、緊張しない方法などないであろう。 緊張はするものである。 従って、ショットに著しく影響するほど緊張するのを避けなければならない。 先ず人のヤジである。 自分の番になり、親しい人からからかい気味のヤジが飛ぶ。 答えてはならない。 もう自分の打つフェアウエーに集中する。 自分の世界に入り込めば、人の目を意識することが無くなる。 皆もそれを見てそれ以上声を掛けてこなくなる。 出来るだけ力を抜いて軽く素振りをする。 決して思い切り振らない。 これでかなり緊張がほぐれる。 後はいつものスイングをすればよい。 いつもの当たりが出れば成功である。 と言うのが私なりの心構えであるが、だからといって何時もナイスショットが出るわけではない。 その後のティーショットと同様で、いいときもあれば悪いときもある。 18あるティーショットの一つであると思えばよいのだ。

 前に打つ人のショットにも影響されることがある。 前の人がナイスショットしたらしたで、右に大きくOBしたらしたで、かけ声や、どよめきが起こり、その余韻がティーグランドに残る。 その中で自分がティーショットを打つ。 何とも言えない雰囲気である。 ここでも、人のコメントのやり取りの輪の中に入らずこれを無視し、ゆっくり大きく素振りを始める。 みんなの意識を自分に引きつけるのだ。 自分がアドレスを取ろうとするときに、他人同士が会話をしていたら集中できるものではない。 ましてや、大人数があちこちで、まちまちの会話をされていたらたまらない。 皆を静まらせるには、自分に意識を引きつけるしかない。 ティーショットは元来人に見られるものであるから、開き直って人に見せるつもりになった方がむしろ良い。 みんながほかに気を取られている内に打ってしまおうとするとかえってミスを呼ぶものだ。 皆が静まりかえった時には、自分の集中が最高に高まっているぐらいのタイミングがとれれば最高である。

 スタートホールのティーショット、うまく打てればそれに越したことはない。 でも、うまく行かなくても先は長いのだから気にすることはない。 他人の目を気にして何時もと違うことをやろうとしても出来るものではない。 いつもの自分をさらけ出すしかないのだ。 そんな開き直りからくる冷静さを持ってティーショットに臨み、まあまあのショットでフェアウェーをとらえる。 そんなショットが出来るようになれば、あなたの優勝も間近である。


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