ティーグランドに立つ。 極度の緊張感。 意を決してバックスイングを開始、引き絞られる身体、良くも悪くも止めることが出来ないダウンスイング、クラブ一閃思い切りボールをはじく。 ボールの行くへは?!
ティーショットはゴルフの華とよく言われる。 サラリーマンゴルファーの100人に聞いてみたら、おそらく100人が「ティーショットはゴルフの最大の楽しみ」と答えるであろう。 もちろん、ウッドで打つパー4や5でのティーショットを主にさすことになる。 ティーショットほどリスクの大きなショットはない。 一番OBの出るショットであろう。 しかし、その代償として、ナイスショットしたときのうれしさも半端じゃない。 ティーショットが極端に悪いと、その日のゴルフが台無しに思えるほど落ち込む。 面白くなくなる。 逆にナイスショットが連発すると気分良くラウンドできる。 別に、ティーショットがいいからといって必ずしもスコアがすばらしいとは限らない。 スコアがいいのとは別の快感が生じるのである。
ティーショットに1番ウッドはつき物であり、一番長いクラブを振ることになる。 正確を期して、また、そのホールやプレイの状況を考えて3番ウッドや4番ウッドを使ったり、アイアンを使ったりと多彩なクラブ選択もあり得る。 しかし私はよほどのことがない限り1番ウッドを手にすることにしている。 サラリーマンゴルファーにとって安全なホールなんてあるだろうか。 常に危険に立ち向かってのティーショットと言わねばならない。 このホールはどのくらい危険かなどと器用な(一般的には冷静な)ことを考えず、迷わず1番といく。
ティーショット成功のかなりの部分はバックスイングの開始にあると思う。 ここで、自然にすーっとクラブが引ければ後の流れもよくなる。 始めよければ全て良しである。 だいぶ昔になるが、私もバックスイングの開始をどうするかでいろいろ悩んだ末、かのニクラウスがやっていた首をわずか後方に振ってからバックスイングを開始する方法を練習したことがある。 うまくいきそうだったので、いよいよ実戦で試すときが来た。 朝の一番ホール、かなりの数のプレイヤーが見つめる中、練習どおりの首の動きからのバックスイング。 よっしゃっと振り下ろすクラブ。 どーん。 クラブが地面ではじけた。 ボールはちょろちょろと10メートル先へ。 2度とこの方法を試したことはない。
バックスイングで余計なことを考えないで、ほどほど腕を伸ばし、その場で体を回す感覚でクラブを振り上げる。 ちょっと恐い思いをするくらい両手を遠くに振り上げる。 かと言ってオーバースイングにはしない。 私の心構えはこんなところだろうか。 よく肩を回してとか、体を回してという言葉が必ずといていいほど取り交わされる。 確かに大事なことではあるが、これを意識しすぎてスイングを乱している人も少なくない。 体を回そうとするあまり、右へのスウェーが大きくなってしまい回転軸が動いてしまうのだ。 「その場で体を回す感覚」が大事だと思う。 あるコンペで、経験の浅い後輩と一緒に回ったときのこと。 惚れ惚れするような大きないいスイングをするのに、彼のボールはスライスして思うようなところへ飛ばない。 何ホール目だったか、ティーグランドに歩きながら、彼のスイングをべたほめした後、「もうちょっと手前に引くようにバックスイングを」と助言をした。 するとどうだろう。 そのホールから、彼のボールはフェアウェーの真ん中に、われわれのボールをはるかに置いてきぼりにして飛んでいったのである。
ティーショットの難しさは、小さくし過ぎても大きくし過ぎてもいいショットができないと言うことである。 ラウンドしながら、ティーショットが乱れに乱れ始めると、どうしたらいいか分からなくなる。 ちょっと控えめにと軽く打とうとしても、引っ掛けたり、押し出したりでミスショットになる。 えいやっと、やけくそ気味で力を入れて打つと、もちろん大ミスとなる。 どうしたらいいんだと悩んでいるうちに最終ホールとなる。 この最終ホールで奇跡とでも言うようなナイスショットが出ればまだしも次につながるが、 ここでもミスとなるとその日のラウンドはもちろん、自分のゴルフそのものへの自信を失いかねない。 こんなときどうしたらいいのだろうか。
ラウンド中にあれこれ迷ってスイングを変えるのは、はなはだ危険である。 かえって傷を深めることが多い。 しかし、一方で、ラウンド中は思考停止に至っていることも多い。 ティーショットの場合でも、こんなことはないはずだと思いながらも、何度も同じミスを重ねてしまう。 何がなんだか分からないうちにミスがミスを重ね、悲惨な状態に陥ってしまう。 こんな時こそ冷静になろう。 何にも考えないでただクラブを振り回していないか。 逆に、何かにこだわり過ぎていないか。 いい時の振り方を思い出そう。 原点に戻るのだ。 ゆっくり、力を抜いて、大きく。
こんなとき、日ごろから基本に忠実なスイングを練習で身につけていればよかったのにとつくづく思うのだ。
ティーグランドにパートナーと和やかに談笑しながら向かう。 さきほどのホールでの3パットも笑い話で吹き飛ばすのだ。 行く手のホールを見つめ、落としどころの狙いをつけるが、あくまでもフェアウェー真ん中が狙いどころである。 前の組の遅いプレーも談笑の対象にして、いらつかない。 パートナーのショットも他人事のように見過ごす。 自分の番に回ってきたときは、程よい緊張と集中力がみなぎる。 後はいつものショットをするだけ。 いつも以上のショットが出るかもしれない。 振りぬいたクラブ、パートナーからの「ナイスショット」の声、近くに落ちたティーを早々と拾い上げる。 こんなティーショットが出来るようになれば、あなたの優勝も間近である。